敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている



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 飛行機が離陸して十分ほど経ち、シートベルト着用サインが消えた。

 緊張で硬くなっていた体の力が抜けて、ひとまず無事に離陸できたことにホッと胸を撫で下ろす。

 私――南沢(みなみさわ)杏は飛行機という乗り物が苦手だ。

 高校の修学旅行で沖縄に行った際の復路便が悪天候で大きく揺れたことがトラウマになっている。私にとって飛行機は乗りたくない乗り物ナンバーワンだけれど仕事のためとなるとそうもいかない。

 三カ月後の十二月二十五日に二十八歳の誕生日を迎える私は、ネイリストとして働いて八年目になる。

 美容系の専門学校を卒業後、渋谷にあるネイルサロンに就職。七年勤務してから独立して、今年の四月に夢だった自分のサロンをオープンさせた。

 普段はそこで施術をしているけれど、明日は特別に沖縄で出張ネイルの予約が入っている。

 お客様との約束は午前九時。台風が接近中らしいのでまだ天候が安定している今日の午後の便で沖縄に前乗りしてホテルに一泊。翌日の施術を終えたあと午後の便で東京に戻る予定だ。
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