敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 匡くんは私のネイルサロンの場所を知らないはずが、予約を取っているお店は偶然にもこの近くにあるらしい。

 彼は仕事を終えていったん帰宅してから来ると連絡があったけれど、たぶんもう到着しているだろう。むかしから匡くんはいつも時間厳守だから。

 小走りで急ぎ、息を切らしながらようやく待ち合わせ場所までやってくると、人が多くても目立つ長身のおかげで匡くんはすぐに見つかった。

 前髪を上げたヘアスタイルは爽やかさもあり、男らしくて精悍な印象も受ける。匡くんにとてもよく似合っている。

 白のカットソーの上に長袖のオープンカラーシャツを羽織り、下は黒のテーパードパンツ。

 シンプルな服装だけれど、すらりと背が高くスタイルのいい彼が着ると洗練されて見えるのだから羨ましい。その立ち姿はファッション雑誌から飛び出てきたモデルのようだ。

 モテる男オーラを無自覚に振りまいている匡くんの近くを通り過ぎていく女性たちが、次々と振り向いては彼に見惚れているのがわかる。

 その様子になんとなく声を掛けづらくなっていると、匡くんに向かってひとりの女性が近づいていくのが見えた。清楚なワンピース姿の黒髪美人だ。

 声を掛けられた匡くんが振り向くと、女性の表情がぱぁっと華やぐ。それからふたりでなにかを話しているようだけれど、私の位置からだと内容までは聞こえない。
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