敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 知り合いかな?

 そう思ったけれど、匡くんが腕を伸ばしてどこかに向かって指を差しているところを見ると、道案内でもしているのかもしれない。

 それにしては長く話し込んでいたが、しばらくすると女性が匡くんのもとを離れていった。

 そのタイミングで私は彼の後ろからそっと近寄っていき、背中に向かって「逆ナンですか」と冗談っぽく声を掛けた。

 突然背後から声を掛けられたら普通は驚くはずなのに、匡くんは動じることなく平然とした様子でこちらを振り返る。

「遅かったな」
「匡くんって後ろにも目があるの?」
「あるわけないだろ」

 なに言ってるんだお前とでも言いたそうな呆れた視線が私を見下ろす。軽くため息を落とした匡くんが「道案内をしていただけだ」と、先ほどの女性とのやり取りが逆ナンではないことを告げる。

 私もそうだろうと思いながらふたりのやり取りを少し離れた場所から見ていたことを打ち明けると、匡くんの眉間に皺が寄った。

「呑気に見てないで、着いたなら早く俺のところに来い。あの女しつこくて大変だったんだからな」
「しつこい? 道案内してたんだよね」
「そのお礼がしたいから連絡先を教えてほしいと言われて断るのに苦労した」
「それってやっぱり逆ナンされてる気がする」

 もしかしたら先ほどの女性にとって道案内は匡くんに声を掛けるためのきっかけでしかなく、本当の目的は連絡先ゲットだったのかもしれない。
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