敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「別の店がよかったのか」
黙り込んでしまった私が気になったのか匡くんが尋ねてきた。
私は慌てて首を横に振り、そういうわけではないと彼に告げる。
「この店の高級感に緊張してるだけ。私、こんな服で大丈夫だった?」
「心配するな。たしかにここはそれなりに値が張る店だけどカジュアルな服の客が多いから」
匡くんはテーブルに置いてあるメニュー表を手に取った。
「特別なマナーや焼き方があるわけでもないし普段通りで問題ない」
「普段通りと言われても、焼肉は久しぶりだから」
「最後に来たのは?」
「えっと……」
記憶を呼び起こすと、もう二度と顔を見たくない人のことを思い出す。
「……昨年。元夫の誕生日に私がご馳走した」
「そうか」
静かに頷いた匡くんが手に持っているメニュー表を私に手渡す。
「食べたいのがあればここから好きに選んで。今日は俺がご馳走する」
「うん、ありがとう」
そう言われたものの、すべて彼に奢ってもらうのはなんだか気が引ける。やっぱり自分の分は払ったほうがいいのだろうか。でも、お金がない……。
そんなことを考えながらメニュー表を覗き込み、金額を見て唖然とする。
高いっ! さすが高級店。手持ちのお金じゃ自分の食べた分は絶対に払えない。
私は静かにメニュー表を閉じた。
「匡くんのオススメは? 私、それにしようかな」
「自分で選ばなくていいのか。杏がそう言うならコースで頼むけど、他に食べたいのがあれば追加して」
「うん」