敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「でも、まったくお金がないってわけでもなくて。ネイルサロンの経営が安定するまでの運転資金に取ってあるお金があるから、それを使えばひとり暮らしができると思うんだけど……」
「それだと今度は経営が厳しくならないのか」
「……なるかもしれない」

 しょんぼりと肩を落として俯いた。

 さっきまであんなに幸せな気持ちで食事をしていたのに、急に現実を突き付けられて途方に暮れる。

 ひとり暮らしをするためにはやはりネイルサロンの経営をこのまま続けていくのは厳しいのかもしれない。

 今の状況を考えればお店を畳むのがたぶん正解。だけど、今の私の心の拠り所をそう簡単には手放せない。

「どうしてこうなっちゃったんだろう」

 膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締める。私の口からこぼれたのは弱々しい声だった。

「不倫されて離婚して。実家もなくなっちゃうし、お店もこのままだと続けられないかもしれないし。どん底だよ、もう……」

 離婚をしたとき、ここが私の人生のどん底なのだと思った。あとは這い上がるだけ。それなのにまったく地上の光が見えてこない。むしろもっと下に向かって落ちている気がする。

 匡くんの前でこんな愚痴のような弱音を吐いても仕方がないことはわかっている。私だってこんな惨めな自分を匡くんに見せたくなかった。

 一人前のパイロットとして成功している彼と比べて今の私はとても情けない人生を送っていて恥ずかしい。

 急に胸の奥がぎゅっと苦しくなって、じわじわと瞳に涙が滲んだ。
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