敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「俺はただ、今の杏を放っておけないだけだ。本当に困ってるなら助けてやる。その代わり俺との結婚が条件だ」
「結婚が条件……」
匡くんの言葉にごくりと唾を飲み込んだ。
匡くんと結婚をすれば私は彼に生活面と金銭面を支えてもらう理由ができて、実家を出てからもネイルサロンを続けることができる。
匡くんも私という妻ができれば女性から誘われることもなくなるし、誘われてもばっさりと断ることができる。
匡くんの提案している結婚は他の人とは違う、普通じゃない結婚なのかもしれない。でも、案外そういう関係の方がうまくいくような気もしてきた。
離婚を経験して、どうせもう誰とも恋愛も結婚もする気がないのなら、匡くんとこういう形の結婚をしてもいいのかもしれない。
うじうじと悩むくせに意外と単純な私の思考はすっかり匡くんとの結婚に前向きになっていた。
「私も匡くんのこと好きだよ。兄としてね。たぶん子供の頃からお兄ちゃんよりも匡くんを信頼しているし頼りにしてる」
「それ慎一が聞いたら泣くぞ」
匡くんがふっと笑みを見せる。そんな彼を見つめたまま私はゆっくりと次の言葉を口にする。
「私、匡くんと結婚する。だから私を助けてください」
よろしくお願いします、と深く頭を下げれば、私の答えを受け取った彼が「了解」と静かに呟く声が聞こえた。