敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「そういう面倒な誘いも妻という存在がいればなくなるだろうし、誘われても結婚していると答えれば相手もすぐに引き下がるはずだ。だから杏と結婚すると俺にもいいことがある」

 結婚が女避けになるという匡くんの言っていることは理解できる。でも……。

「だからってそんな理由で結婚するのはおかしいよ。匡くんは結婚をなんだと思っているの。結婚っていうのは好きな人とするんだよ」

 そう言ったあとでふと気が付く。

 一度結婚に失敗した私がどの口で結婚を語っているのだろう……。

「俺は好きだよ、杏のこと」
「えっ」
「たぶんお前の元夫よりも俺の方が杏を想う気持ちは強いと思う」
「えっ、あ……えっと……」

 突然のことにどう返していいのかわからず瞬きをぱちぱちと繰り返す。

 好き? 匡くんが私を? これって告白……。

 口をぽかんと開けたまま石像のように固まっていると、それまで真剣な表情を浮かべていた匡くんの口角がふっと緩まる。

「そんなに動揺するなよ。好きっていっても妹としてって意味な」
「あっ、そっち⁉ そっちね!」

 思わずホッと胸を撫で下ろした。

 一瞬、匡くんに告白されたのかと思ってびっくりした。でも、よく考えればそんなことはありえない。

 匡くんにとって私はむかしからずっと妹のような存在で、女性としては見てもらえていないんだから。

 私もそういう関係に満足しているから、さっきの告白が妹としての意味じゃなかったらどうしようかと焦ってしまった。
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