敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 そんな南沢兄妹と羽田空港の展望デッキに行った夏休みの日、初めて飛行機の離着陸を見た杏は感動したのかずっと興奮していた。

 この日はたぶん第二ターミナルの屋外展望デッキから離着陸を見ていた気がする。

『うわぁ~、すごい。かっこいい』

 国内でも圧倒的な離着陸数を誇る羽田空港では次から次へと飛行機を見ることができる。そのたびにいちいち目を輝かせながら大袈裟なくらいの反応をする杏がおもしろくて、いつの間にか俺の視線はずっと杏に向かっていた。

 一機の飛行機が機首を持ち上げて空に向かって飛び立っていく。それを指差しながら杏が振り返って俺に言った。

『匡くん見て。あんなに大きな飛行機が空を飛ぶなんてすごいよね』

 杏はどうやら着陸よりも離陸の瞬間が気に入ったらしい。

 飛び立っていく飛行機を見るたびに俺と慎一に声を掛けてきて、それにうんざりした慎一はひとりで静かに飛行機を見たくなったようでいつの間にか俺に杏を押し付けてどこか別の場所に消えていた。

 九歳の杏をひとりにさせることもできないから必然的に俺が杏の相手をすることになる。

『飛行機ってどうやって飛ぶんだろう』

 眉間に皺を寄せて真剣に悩んでいる杏の横顔から視線をはずした俺は、青空に吸い込まれるように飛び立っていく飛行機を、目を細めながら見つめる。
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