敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
『飛行機が飛んでいるときの機体には推力、抗力、揚力、重力の四つの力が働いていてるんだけど、そのとき抗力よりも推力が大きいと――あ、ごめん。難しかったか』
ふと隣の杏を見れば、ぽかんとした表情を浮かべている。
どうしたらわかりやすく説明ができるかと考えていると杏がにこっと笑った。
『匡くんもお兄ちゃんみたいに飛行機に詳しいんだね。パイロットになりたいの?』
『俺?』
そういえば慎一の夢はパイロットだ。だから俺も同じ夢を持っていると杏は思ったのだろう。けれど、俺は首を横に振った。
『いや、俺は飛行機が好きなだけであって、仕事にしたいのは父さんと同じ航空管制官かな』
『コウクウ……ってなに?』
こてんと首を傾げる杏に説明するため、俺は航空管制塔を指差した。
『ほら、あそこに白い塔があるだろ。管制塔っていって、あの中には航空機が安全に飛べるようサポートしている人たちが働いているんだ。俺がなりたいのはそれ』
『へぇ』
頷いた杏の視線が再び滑走路に戻る。そこには一機の飛行機が離陸体勢に入っていた。
『お兄ちゃんはパイロットになりたいんだって。そうしたらお兄ちゃんもああやって飛行機を飛ばすんだよね。かっこいいなぁ。自慢のお兄ちゃんになるね』
どうやら杏はこの一日で飛行機をとても気に入ったらしい。それを飛ばしているパイロットにも憧れを抱いたのかもしれない。
かっこいいなぁと呟いた杏の声がやけに耳に残って離れなかった。