敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「今日は車なのか」
駅方面ではなく俺と同じ駐車場方面に向かっている小久保さんに尋ねると「はい」と彼女が頷いた。
「今日は夫と帰り時間が近いから乗せて帰ってもらおうと思って」
「そういえば俺より少し前に赤嶺も退勤していたな」
小久保さんの夫は、杏と再会した日の沖縄便で一緒に飛んだ副操縦士の赤嶺だ。昨年結婚したのだが、彼女が旧姓のまま仕事を続けているのでこれまで通り小久保さんと呼んでいる。
「あ、そうだ。藤野さん、ご結婚されるそうですね」
思い出したように小久保さんが口を開いた。
「早いな。もう知っているのか」
杏と結婚を決めて一週間ほどが経つ。
四日前の海外フライトに発つ日に結婚することを同僚にちらりと話しただけだが、もう客室乗務員の小久保さんの耳にも入っているとは驚いた。
「知っているに決まってますよ。だって藤野さんはうちの会社始まって以来もっとも若い年齢で機長に昇格した有名人ですからね。そんなエリートさんの結婚話は光の速さで広まっていきますって」
「なんだよそれ」
思わず苦笑が漏れる俺に小久保さんが言葉を続ける。
「私たち客室乗務員の女性陣の間では藤野さんの結婚の噂はちょっとした事件なんですよ」
「事件? 俺なにか悪いことしたか」
ただ結婚するだけなのだが……。
小久保さんがこくこくと頷いた。
「悪いことしちゃいましたね、藤野さん。たくさんの女性を泣かせた罪は重いですよ」
「なにそれ」
またも苦笑が漏れる俺に小久保さんが言葉を続ける。