敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 ようやく杏を好きだと受け入れることができたものの、俺はなにひとつ行動には移せなかった。

 その頃は副操縦士から機長に昇格するべくひたすら経験と訓練を積んでいたこともあり、まだ一人前のパイロットにすらなれていないのに恋愛に現を抜かしている場合ではないと思っていたから。

 だから、他の男に杏を奪われたのは当然のことだった。

 慎一から杏が結婚をしたという連絡を受けたのは俺が機長に昇格したのと同じ年――杏がブーケをキャッチした二年後のことだ。

 杏の結婚を知ったとき、頭をガツンと殴られたような強い衝撃を受けた。

 もう二度と手に入らないとわかった途端に、杏を好きだという気持ちが溢れてくる。

 俺のことを〝匡くん〟と呼んでは屈託のない笑顔を向けてくる杏を思い出しては胸が苦しくなった。

 杏のことが好きなのに仕事を優先させてなにも行動を起こさなかった自分をひどく後悔した。

 それでも、杏が幸せならそれでいいと思うことにした。夫に愛されて、杏も夫を愛して。そうやって幸せに暮らしているなら、俺はもう杏を好きだという気持ちを手放さなければならないと自分に言い聞かせた。

 他の男の妻になった杏をいつまでも想い続けているわけにもいかなかったから。

 それなのに、沖縄で再会した日に杏が離婚したことを知った。

 同僚たちとの食事のあとでホテルに戻った俺はさっそく杏に電話を掛けようか迷ったものの、再会したばかりでいきなり離婚について深く突っ込むのもためらわれ、まずは彼女の兄である慎一に真相を確かめるべく電話を掛けた。
< 68 / 156 >

この作品をシェア

pagetop