敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
クリームシチューだろうか。食欲をそそる美味しい香りが鼻腔をくすぐり、誘われるように近付いていった。
「美味しそうだね」
片手を腰に当てながらシチューをかき混ぜている匡くんの後ろから鍋の中を覗き込む。大きめの野菜とお肉がごろごろと入った豪快なシチューだ。
「俺もまだ食べてないから一緒に食べるか」
匡くんが振り返るので、私も彼の顔を見上げた。
「先に食べなかったの?」
「杏の帰りを待っていたからな」
それならそう連絡をくれたら早く帰ってきたのに。クリスマスツリーの前で足を止めず、真っ直ぐ駅に向かって歩いていた。
そうしたら和磨と彼女にも会わずに済んだし、聞きたくもない会話を耳に入れることもなかったのに……。
あのときの会話が蘇る。騙されていることに気付かなかった私のことをさげすむように笑っていたふたり。
ようやく落ち着いたと思った涙が再び込み上げそうになって俯いた。
「……着替えてくるね」
匡くんの前で泣きたくなくてこの場を離れることにした。
くるりと身を翻した瞬間、「待て」と匡くんに腕を掴まれて引き戻される。
「お前、泣いたのか」
匡くんの声にピクッと肩が跳ねた。
寸前のところで涙を引っ込めたはずだ。それとも帰りに泣いたせいで目が赤く腫れていたのだろうか。