八千代くんのものになるまで、15秒
*
「っ、くらき」
「……」
「倉木ってば、」
「なにっ」
「ちょっと、一回落ち着いて」
改札を抜けて、ホームへと続く階段を降りる。
発車のベルが鳴っている電車に飛び乗って、乱れた息を必死に整える。
「っはぁ、よ、よかった……電車乗れて」
「あー……はは、そうだね」
走ったせいで暑いのか、前髪を鬱陶しそうにかき上げながら八千代くんはそう言った。
そんな八千代くんがどこか色っぽくて、思わず見惚れてしまう。
……ん?
いや、ちょっと待って。
八千代くんって、この電車、使わないんじゃ……
サーっと青くなる私に、「気付いた?」なんて、ほんの少し意地悪く笑う。
「ごめんっ、勢いでいつもの電車乗っちゃった……」
「いや、いいよ。ついでだし、駅まで送る」
「えっ、でも、」
「いーから。」と、そう言って私の髪を撫でた八千代くんは、空いている席に座った。