八千代くんのものになるまで、15秒


「っ、」



流れるように髪を撫でられた。

八千代くんにとっては何てことない、ただの気まぐれかもしれないけど、私にとっては……




「はは、真っ赤」

「……誰のせいだと思ってるの」

「俺のせいだね」




座って、とでも言うかのように、ポンと隣の空いている席を叩く。




「……あのブックカバー、百合さんから貰ったんでしょう」

「うん」




揺れる電車の中、すぐ隣に八千代くんの温もりを感じながら、やっぱりそうか、と思った。

百合さんは、八千代くんにとって大切な人なんだ。


大切で、それで……




「百合さんのこと、好き?」

「……さぁ?」

「八千代くん」

「多分、俺があの人と一緒になることはないよ」

「そうじゃなくて……」




そうじゃなくてさ。

八千代くんはさ、百合さんにも、仁さんにも自分の気持ちを知られないようにしてたんでしょ?

だって、知られたら困るもんね。

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