丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう

【紀信】

紀信「鈴嶺?」

鈴嶺「あ…はぁはぁ……紀信…く…」

紀信の病院に、鈴嶺が来院してきた。
佐木の肩に頭を預け、息苦しそうに肩で呼吸をしている鈴嶺。

紀信は鈴嶺の足元に跪き見上げた。

佐木「おそらく、風邪だと思うんですが……なかなかお熱が下がらなくて…」
紀信「そうですか…
今日は患者さんが多いからね……
僕が診てあげられたらいいんだけど、もう行かなきゃなんだ。ごめんね……」
佐木「そんな……いくらご友人だからってお嬢様を贔屓してはダメですよ?」

紀信「そう…ですよね……つい…
じゃあ…鈴嶺、お大事にね…!」
鈴嶺の頭をゆっくり撫で、去っていった紀信だった。

その後ろ姿を見て佐木は呟く。
佐木「紀信様、まさか……お嬢様を…?」


幸い、鈴嶺はただの風邪で大したことはないとの事で、佐木はホッと胸を撫で下ろしていた。

佐木「お嬢様、お会計とお薬を貰ってきますので、ここでお待ちください」
鈴嶺「ん…」

佐木が会計に向かうと、ちょうど紀信が鈴嶺の元へ戻ってきた。

紀信「鈴嶺、大丈夫?」
先程と同じように、鈴嶺の足元に跪き見上げた。

鈴嶺「紀信く…うん、大丈夫…ただの風邪だって」
紀信「そっか。大きな病気じゃなくて良かった……!」
鈴嶺「紀信くん…お仕事は……?」
紀信「僕の事は気にしないで……!
それよりも、鈴嶺が心配で……」

鈴嶺「ダメ…だよ……紀信く…お仕事、戻って……」
鈴嶺は弱々しく、紀信を押し返した。

その行為に、紀信は拒絶された気分になる。
紀信「━━━━っ…!!!」

━━━━━━━!!!!?

鈴嶺「え………紀信…く……」
紀信は鈴嶺の隣に座ると、そのまま鈴嶺を抱き締めた。
紀信「………」
鈴嶺「紀信く…離し…て……」

無言で抱き締め、離そうとしない紀信。
その紀信を押し返すが、元々弱い上に病気で益々弱くなっている鈴嶺。
全く、びくともしない。

紀信「くそっ…!柔らかい……いい匂いがする……」
(気持ちが収まらない)

必死に想いを断ち切ろうとしても、それに反するように溢れてくる。

ふと、凱吾が言っていた言葉が蘇った。
“何を犠牲にしても、放れられない相手がいる。出来ることなら、一人占めしたい”

紀信(確かにそうだな……鈴嶺が手に入るなら、今持っているモノ全部捨てても構わない……!)


紀信「鈴嶺…好きだよ……」

紀信は思わず、呟いていた。
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