丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう
鈴嶺「その方のこと、凄く好きなんだね!」

紀信「あ!ご、ごめん!つい…」
鈴嶺「ううん!素敵!」

紀信「でもその子には、婚約者がいるんだ」

鈴嶺「え?そう…なんだ……
辛いね……」
紀信「うん…」

鈴嶺「………」
これ以上、何も言えなくなる鈴嶺。


紀信「中学の頃に……」
不意に紀信が言う。

鈴嶺「え?」
紀信「あの頃に、戻りたいな」

鈴嶺「紀信くん?」

紀信「あの頃は、こんなに苦しむことなかった。
六人がいつも一緒で、確かに辛いことあったけど、六人で話して、一緒に悩んで解決して……
ヤキモチはあっても、嫉妬なんてなかった。
淡い恋心はあっても、苦しい愛情はなかった。
あの頃はみんな綺麗で、澄んでた。
……………でも今は、色んな経験や想いが濁らせて黒く淀んでいく。
みんなを汚していく……」

鈴嶺「……紀信…くん……」

紀信「ねぇ、ちょっと…外歩かない?」



佐木に断りを入れ、二人は近くの海に来ていた。

紀信「鈴嶺、寒いでしょ?これ着て?」
紀信が着ていたパーカーを鈴嶺の肩にかけた。

鈴嶺「え?大丈夫だよ!紀信くんが、寒いでしょ?」
紀信「僕は大丈夫。ほら、また風邪引いたら大変だから。それに……僕は、身体が熱い」

鈴嶺「え!?風邪引いたんじゃ……」
慌てて鈴嶺が、紀信の額に触れる。

紀信は、その小さな手を掴んだ。

鈴嶺「え……紀信く…」

紀信「鈴嶺は、優しいね」
鈴嶺「え?」
紀信「優しくて、穏やかで…お人好しなとこがあるけど、柔らかくて、癒される。
年下みたいに、可愛い」

鈴嶺「え?ちょっ…紀信く…!!?」

紀信が掴んだ鈴嶺の手に、指を絡めて握った。

紀信「わからない?」

鈴嶺「え?」

紀信「僕の、好きな人」

鈴嶺「え……」

“その子、婚約者がいるんだ”
“優しくて、穏やかで…お人好しなとこがあるけど、柔らかくて、癒される”


紀信「鈴嶺、僕は、君が好きだよ」


紀信の顔が近づき、口唇が重なった。


ドン━━━━━━!!!?
鈴嶺が目を見開き、紀信を突き飛ばす。

鈴嶺「はぁはぁ……どうし……」

紀信「鈴嶺は、凱吾が見えてる?」

鈴嶺「え?」

紀信「羽柴 凱吾が、どんな冷酷な人間かわかってるよね!?」

鈴嶺「………」

紀信「そんな人間に渡したくない!
鈴嶺のご両親や佐木さんだって、そう思ってるよ!
だから、二人は結婚できないんだよ!」

紀信の言葉が、響いていた。
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