絢なすひとと
「戦後の混乱期には、そう珍しい話じゃなかったらしい。とはいえ込み入った事情だし、わざわざひとに言って回ることでもないから」
司さんは決まり悪そうな表情で、口元だけ笑ってみせる。

「当人たちは、大変な時代を支えあって乗り越えたという感じらしい。棟続きで家を建てて、どちらかが家で子守りをして、どちらかが店に出るっていう分担で。
子どもたちも普通に兄弟として仲良く育ったし、だから遺恨みたいなものは全くないんだ」

司さんは禮子さんの家系、季美子さん、宗介さん、桜帆さんは初枝さんの家系とのことだけど、子孫たちとしても、家業を継ぐプレッシャーが分散するのである意味助かっているのだとか。
だからこそ司さんのお父様のように、ほづみ屋で働くのではなく別の職業を選ぶ者もいる。

というわけで、七尾家は悠揚に構えているのだが、狭く格式を重んじる業界ゆえに、尾ひれをつけて吹聴されてしまったりもする。
初枝さんの家系である宗介さんや桜帆さんのことを『妾すじ』などと陰口を叩くというから、なんともバカバカしい。

「宗介さんや桜帆さんが傷ついたりしないといいんですけど」
気づけば心を占めていた不安は消え去り、人の心配までしている。
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