情熱の続き
2.東京にいる人たち
東京の海が見えるマンションで桃子はスマートフォンを眺めていた。
こんな手のひらサイズの機械一つでロンドンにいる友人とも気軽に連絡が取れるなんていい時代だ。
レインボーブリッジはいつだって馬鹿みたいに幸せそうに東京の夜の海に色をつける。どのくらいの恋人たちが今夜愛を囁きあうだろう。唇や肌を重ねるだろう。言葉にならない想いをどうにか伝えたくて、確かめたくて。

窓際のソファに横たわったまま、桃子はメールを送信した後でとたんに罪悪感がこみあげてきていた。傷つけたいわけではないのに、言おうか言うまいか思ったことを言ってしまった。

「宗と会ったわ。会社の後輩を紹介してあげたんだけど、なんだか仲良くやっているみたい」

桃子が里穂にメールでそれを伝えたのは、苦しめたり悩ませたりしたいわけではない。過去に囚われず、今の生活にきちんと目を向けて欲しいと思っただけだった。

桃子は里穂との付き合いは長く、貴広から想いを告げられて迷いに迷って結婚した経緯を知っていたこともあり、里穂と宗一郎のもどかしい関係にもなんとなく気づいていた。

余計なことはしないつもりだった。それでも貴広についてロンドンに行ってから、里穂が送ってくるメールを読むたびに、なんだかこのまま見ていられない気がしたのだ。
学生時代が懐かしい、みんなで遊んだ日々が恋しい、またみんなで集まりたい。それはごく普通の内容のはずなのに、里穂の叫びはどこか悲痛さが感じられて、桃子はそのたびに胸の奥が痛むような気がした。里穂が会いたいと思っている一人の存在が頭に浮かんだからだ。

貴広と桃子は別の大学だったがサークルで知り合って親しくなった。宗一郎は貴広の高校時代からの友人として連れてこられた人であり、彼らに里穂を紹介したいと思ったわけではない。ただ自分の親しい友人として、里穂を連れて行っただけだった。そこにいる二人が里穂に特別な感情を抱くとは想像していなかった。もっとも、そんなことは誰も予測できるはずはなかった。誰かが誰かに惹かれるのは、抗うことのできない水の流れのようなものだ。二人の男の想いが一人の女に寄せられることも仕方のないことである。

ただ桃子は、自分が里穂の友人としてできることをするまでと思っていた。たとえ貴広と結婚しても、宗一郎が里穂を特別に想っていたことも、里穂が今更宗一郎に惹かれていたとしても。

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