シュクリ・エルムの涙◆
「……ラヴェルにもサリファの攻撃は見えていたと思いますが、三人が追いかけてきたことには、気付いていないかも知れませんね」

 ツパおばちゃんは早々に食事を済ませ、片付けながら西の空を仰いだ。

「ラウルおじさんは西面の登山路を登っているということですか?」

 おばちゃんの向けた視線を辿り、アッシュがスマートな推理をお披露目する。西面の登山路……確かあたし達が進んでいるこの東路に比べれば、頂上までの距離は短い筈だ。その分険しい断崖が多いので、利用する登山者はめったにいないという。

「そうです。ラヴェルが西路を選んだ理由は、夜間に体力を温存したいからでしょう。夜の見張りをピータンに任せれば、日中かなり進められますからね。ですからこちらは暗くなった後も少しでも登って、追いついておかねばなりません」
「うん……足手まといにならないよう頑張るね!」

 あたしは両手に力を込めて奮起(ガッツポーズ)した。『ラヴェンダー・ジュエル』を持っているのはパパなのだ。パパが山頂に着いてしまったら、きっと闘いは始まってしまう。それまでに合流出来なければ、あたし達が行く意味なんてちっともない。

 そうでなくともママの無事を保証するタイムリミットは、もう丸三日を切っている。ママがどんな状態でいるのか分からない限り、極力早く辿り着きたかった。


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