シュクリ・エルムの涙◆
 ウェスティがタラお姉様をずっと愛していたと思われる証拠──それは二十年前にタラお姉様と再会し、パパやママやお姉様達の手で葬られるその直前まで、タラお姉様を後半の名「ティーナ」と決して呼ばなかったからだと云う。確かにパパは後半の名「ウル」と呼ばれ、実際一度ウェスティかサリファに操られたことがあった。でもタラお姉様は……死ぬ間際までその愛称を呼ばれることはなかったのだ。それはお姉様を母親に操られたくなかったからに違いない。逆を言えば、ウェスティは最期の最後に伝えたかったのかも知れない。「ティーナ」と呼ぶことで、自分がまだタラお姉様を愛しているということを。

 あたしはその想いに信憑性を感じた。ツパおばちゃんが言いかけた言葉を思い出す──「ここからは私の推測に過ぎませんが、現状ラヴェルやタラが操られていないことから見ても、サリファがその力を発動するには、彼女自身に実体が必要なのかも知れません。もしくはウェスティのような「名の許可を得た人物」に、サリファが力を与えることによって実行していた、という可能性もないとは限りませんが。二十年前、ユスリハと旅していたラヴェルの肉体を、ウェスティが一度乗っ取ったことがありました。その要因がもし後者であるとすれば、実際その力を保持しているのはサリファのみ、ということにもなりますね。だからこそウェスティは──……、……ああ……いえ」

 そう、ツパおばちゃんは知っていたんだ。

 『だからこそウェスティは──タラを「ティーナ」と呼ばなかった』のだと!!

 ウェスティはあの頃もずっとタラお姉様を愛していた。だからサリファに乗っ取られたくなかった。

 でもあの場であたし達にその話をしたら、いつかお姉様にも伝わってしまうかも知れない。シアンお兄様とこれから生まれてくるベビちゃんという「別の幸せ」に包まれたタラお姉様に──ツパおばちゃんはそれを危惧して話を濁したんだ……そうよ、これでようやく話が繋がった!


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