シュクリ・エルムの涙◆
「何かお話でもしましょうか? 三年振りのヴェルはどうだった?」
「うん……お土産屋さんが増えた気もするけど……他は前と変わらない感じがした」

 髪を優しく撫でる仕草が、ママと一緒に眠っていた頃を思い出させた。

「あの……アッシュって、どうしてあたしがヴェルに来る時、いつもいてくれるの、かな……?」

 五歳で初めて出逢った時から計四回、それが春休みでも夏休みでも、彼は必ず会いに来てくれた。

「そうネェ~でもあの子はリルヴィちゃんが来ない時でも、長いお休みにはずっと独りで遊びに来てるのヨ」
「え? 夏休みも? 冬休みも?」

 知らなかった……でもどうして? 彼の家族はイギリスにいるのに。

「あの子には内緒にしてくれる?」
「う、うん!」

 あたしは少し上のお姉様の瞳を見上げて、大きく相槌を打った。お姉様はちゃんと理由を知っているんだ。

「あの子の父親──シアンの従兄(いとこ)だけど、随分厳格な方なのヨ。アシュリーには二人お兄さんがいるのは知ってるわヨネ? そのお兄さん達も父親譲りの真面目人間(エリート)みたい。アシュリーも同じ教育方針で、小さい頃から伝統的なパブリック・スクールの寮に入れられているから、普段はまったく自由がないのネ。母親は明るい方だったらしいけど……シアンが言うには、とにかく理詰めのご主人にやり込められて、口ごたえどころかまともな会話も出来なくなってしまったとかで……お休みに自宅へ帰っても、余り居心地が良くないのヨ」
「そんな……」

 そんなこと、全然知らなかった……あんなににこやかで朗らかなアッシュなのに──!


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