あの日の記憶を
 二十四歳になった。

 あれから彼とは一切連絡を取り合っていない。
 少しずつ、彼への気持ちが落ち着いてきた。

 でも嫌いになれない。
 完全に吹っ切れた訳ではなくて。

***

 誰にも話せなかった、彼との話を、職場の先輩にしてみた。色々気にかけてくれる二歳年上の男の人。

 陸斗から貰って、彼とお揃いでつけていたピンク色のミサンガが腕から外せないでいて、まだ彼への未練が私の心の中で残っているのかもしれない気持ちまでも打ち明けた。

 話してから数日後、閉店後の業務をしている時「帰り、渡したいものあるから、ちょっと帰らないで休憩室で待ってて」って先輩に言われた。

 渡されたのは、ピンク色の紐にハートのチャームがついたブレスレット。

 先輩は私の腕のミサンガを指さした。

「それ外せたら、前に進めるかもよ」

 私はミサンガを見つめた。

「そうですね! 先輩、私、前に進みます! ありがとうございます!」

 先輩は、優しく微笑んでくれた。
 私も微笑み返した。

 家に帰ると、部屋着に着替えてメイクを落とした後、ミサンガを見つめた。

「糸が切れない限り、ずっと僕達一緒にいれるはず」だとか「もし切れたら、またお揃いの買えばずっと仲良しのままでいられる」だとか言って、ふたりお揃いでつけていたミサンガ。

 そのミサンガを……、切った。
 
 切る瞬間は想像よりも冷静でいられて、涙ひとつこぼれなかった。もう過去に涙を流しすぎていたから。

 それから私は切れたミサンガを見つめながら、陸斗はミサンガを切れずにいて、今頃後悔しながら付けているのかもしれないなって想像した。

 想像しながら、ミサンガをゴミ箱の中に、落とした。 

***

 その日、夢をみた。
 実際に過去で過ごした風景の夢。

 仕事が休みの日。ふたりで朝から散歩をしている。夏の早朝は風が気持ちよくて、ちょうど良い涼しさで気持ちがよい。

「おじいちゃんおばあちゃんになっても、一緒にこうやって仲良しでいるんだろうね!」
「当たり前でしょ! 僕らはずっと一緒だよ」
「ねっ! なんか陸斗といると、外歩いているだけなのに凄く楽しい」
「ずっと幸せでいような」

 ふたりは手を繋ぎながら微笑みあった。

 ―――幸せ!


 そんな、懐かしい夢。彼と過ごした日々はもう、懐かしい過去。

 過去を糧にしてこれからは、生きていきます。

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