あの日の記憶を
★陸斗
 僕が美波と出会ったのはちょうど今から十年前、十五歳の時だった。

 高校に入り、同じクラスになってすぐに彼女に惚れた。

 クラスの中でとても静かなタイプで、僕とは正反対。彼女が彼女の友達と話している時に見せる、はにかんだ笑顔。授業中、先生に当てられた時、自信なさそうに答える姿。小柄で包みたくなるような可愛さ。全てが愛しくて、守ってあげたくなった。

 積極的にアピールすれば好きになってくれるかな?

 できる限りのことをした。
 
「ちょっと使い方まだよく分からないけれど、スマホにLINEを入れてみたよ!」

 休み時間、美波は友達との会話でそう言っていた。これはもう、彼女のLINEを聞く以外の選択肢はない。

「LINE教えて? 交換しよう!」

 すぐ教えてもらった。

 交換したその日の夜から、LINEでの会話が始まった。
 彼女からも送ってくれるようになって、その時は嬉しくてすぐに返事をした。

 卒業する日が近づいてきた。

こんなにLINEをしたりしているけれども、付き合っている訳ではないし、卒業したら疎遠になってしまうかもしれない。

 僕は決意した。
 告白する。

 校門を抜けた場所で、友達と雪玉で遊びながら彼女が通るのを待った。

 来た!

「ちょっと来て!」

 人に見られない場所に、来てもらうことにした。ゆっくり歩く姿も愛おしい。急がせないように、歩幅を合わせた。

 告白する時は珍しく緊張した。
 
「好き、付き合って欲しいです」

 はにかみながら彼女は「はい」って言ってくれた。

「よっしゃー!」

 僕は雪玉で遊んでいそうな友達の所にまで聞こえそうな声で叫んだ。嬉しすぎて。

 卒業して、僕はすぐに一人暮らしを始めた。仕事が終わると彼女は家に来てくれて、一緒にいられて、幸せだった。

 でも彼女には門限があって、ちょうどまったりしている時間に「もう、帰らなきゃ」って彼女が呟くのが日課だった。離れるのが寂しくなった。

「一緒に暮らしたいね」

 僕がそう言うと「一緒に暮らしたいね」って。彼女が毎回同じ言葉を返してくれた。

 二十歳の時、同棲を始めた。
 一緒にいられる時間が増えた。

 彼女はめったに自身がやりたい事とか、言わないから、たまに言う彼女の願望は必ず実現させたかった。テレビを見ながら「水族館に行きたいな」って彼女が呟いていた時は、すぐにネットで良い場所がないか検索して、連れていった。水族館に行った時は、物凄く楽しそうで、その姿を見て、ほっとして、幸せだった。

 幸せだった。
 何もかもが幸せだったのに……。

 僕のせいなんだ。
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