イケメン、お届けします。【注】返品不可
「お待たせしました」
コーヒーと共にテーブルへ。
お礼くらい言うだろうと思いきや、まさかのダメ出しを食らった。
「フルーツやヨーグルトはないのか? 栄養バランスを考えた食事は、健康的な生活の基本だろう?」
「申し訳ございません。当店では別メニューとなり、セットではお付けしておりません。別途ご注文いただく必要がございますが、現在在庫切れとなっております」
込み上げる怒りを呑み込んで、あくまでもにこやかに応じる。
「優先して対処すべき課題だ。ちなみに、朝は和食の方が好きだ」
「…………」
思わず、彼の目の前にある皿を引っ込めたくなったが、深呼吸し、なんとか踏み止まった。
「次からは、ご希望に添えるよう対処させていただきます」
「そうしてくれ」
昔のご婦人のように、ハンカチを噛んで「きーっ!」と叫びたかったが、大きな口を開けてホットサンドにかぶりついた彼の頬が緩むのを見て、怒りを削がれた。
(ムカつくけど……美味しそうに食べるなぁ……)
その顔は、大好物を頬張る子どものように無邪気だ。
「見た目は普通だが、美味かった」
「……それはようございました(怒)」
あっという間に平らげた彼は、空になった皿とマグカップをシンクへ下げるという意外な行動を見せたのち、不可解な質問をしてきた。
「そのままの恰好で出かけるつもりか?」
「はい?」
「気にならないなら、それでもいいが。どうせロクなものを持っていないだろうし、コーディネートに頭を悩ませるより、全部買い揃えた方が早いからな。髪や顔に無駄な小細工をする必要はないが、とりあえずシャワーくらいはしたらどうだ?」
「む、無駄な小細工ってどういう意味っ!? 出かけるって……どこに?」
「どこへでも。今日一日、おまえの行きたいところ、やりたいことに付き合えと言われている」
「え、でも、急にそんなこと言われても……」
「何かないのか?」
すてきなレストランで食事をして。
夜景の見えるおしゃれなバーで美味しいお酒を楽しんで。
スイートルームでイチャイチャ&ラブラブの一夜を過ごす。
朝目覚めたら、薬指にダイヤモンドの指輪が輝いていた……。
なんてことは、夢のまた夢。
「映画見て、ウィンドウショッピングして、ゴハン食べる……とか?」
現実的なわたしの望みを聞いた彼は、不満そうに鼻を鳴らした。