イケメン、お届けします。【注】返品不可
イケメンと狭い部屋にふたりきり、というシチュエーションにときめいているからではない。

命の危機を感じているせいにちがいない。


(それにしても、存在感ありすぎ……)


イケメンとは、黙っていてもタダならぬオーラを発する「いきもの」らしい。
透明人間になっても、そこにいることに気づいてしまいそうだ。

しかし、ここは大人の対応として、当たり障りのない世間話でもするべきか。
でも、話題を選ばないと噛みつかれそうだ、などと考えていたら、「ぐううぅ」とお腹の虫が鳴いた。


(とりあえず……朝ごはんにしよう)


さっきから動悸がいっこうに治まらないのは、低血糖のせいかもしれない。
食パンを取り出し、礼儀として訊ねた。


「あの。コーヒーも淹れますけど、パン食べます?」


本気でごちそうするつもりはなかったのに、返って来たのは予想外の答え。


「BLTサンドなら食べる」

「……はい? BLTとは、ベーコン・レタス・トマトの略のBLTで?」

「それ以外の何がある? 材料がなければ、どれかが抜けてもかまわないが」


朝食は食べる派だけれど、休みの日――しかも二日酔いの朝に張り切っておしゃれな料理をする習慣はない。

カレシのために頑張ってみようと血迷うこともあるが、相手は受け取り拒否し損ねた「お届けもの」だ。


「普通にトーストして、マーガリンとか塗るだけでも十分おいしとおも……」

「BLTサンドが食べたい」

「でも」

「BLTサンドだ」

「……はい」


それ以外のものを出したら、噛みつくぞと言わんばかりの表情で睨まれて、すごすごと引き下がった。

世の中、イケメンなら許されることは、結構あると思われる。
美しい顔を何時間でもうっとり眺めていられる自信は、ある。

ただし、二日酔いの朝九時からワガママな発言を一切せずに、黙っていてくれるなら、だ。


(朝っぱらからBLTだとぉ? おのれはどこのセレブじゃ!)


心の中で毒づきつつも、レタスをちぎり、トマトをスライスし、ベーコンを炒め、目玉焼きを作る。

ホットサンドメーカーで焼いた食パンにマヨネーズとマスタードを塗り、すべての具材を載せて、もう一枚の食パンを重ねれば出来上がりだ。

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