イケメン、お届けします。【注】返品不可
「見ず知らずの人を部屋に上げるわけにはいかないので、受け取り拒否させても……」


いくらイケメンでも、不審者は不審者だ。
常識的な対応を口にしたところ、むっとした顔で詰め寄られた。


「ルミから聞いていないのか?」

「ルミ……さん?」

「連絡しておくと言っていた」

「…………」


手にしたスマホを見下ろし、チェックすると……メッセージがある。


『誕生日プレゼントに、うちのナンバーワン、癒し系のかわいい子犬を送ります! 今日一日、どんなリクエストにも応えるようしつけてあるから、好きにしちゃって! 追伸:豆柴に似ているから、お店では「シバちゃん」って呼んでまーす。 ルミ💕』


ルミさんの経営するバーのスタッフは、子犬系からワイルド系まで、各種イケメンがそろっている。
その中のひとりに、かわいそうな後輩を喜ばせるアルバイトを申し付けたにちがいない。


しかし。


(癒し系? 子犬? 豆柴のシバちゃん? どこが? これ、どう見ても獰猛系、成犬、ドーベルマンのドンでしょうっ!? ルミさーんっ!)


「確認したか?」


話がちがうと言いたかったが、相手は身長百六十五センチのわたしが見上げるくらいの長身。冷ややかな表情で見下ろされると、心臓まで凍りつきそうだ。

命が惜しいので、とりあえず頷いた。


「……はい」

「コーヒーは、ブラック。ハンドドリップでなくともいいが、インスタントは不可だ」


一方的に注文を述べ、家主の了解も取らずにズカズカと部屋へ入っていく後ろ姿を見送る。

返品は……受け付けてもらえなさそうだ。

取り敢えず、不審者ではないことが判明したし、ルミさんのお店のスタッフだし、コーヒーの一杯くらいはごちそうすべきだろう。

そして、その後は静かにお帰りいただく……のが、穏便に事を済ませる唯一の方法だと思われた。

いまさら着替えても取り繕うには遅すぎると諦めて、ユルダラな恰好のままキッチンへ向かう。

コーヒーメーカーをセットし、キッチンの戸棚をあさってみつけた花瓶の埃を払い、薔薇を活け、ちらりと「お届けもの」の様子を窺えば……ラグの上に胡坐をかいて、しきりにスマホを操作している。

ピンクのソファーが気に入らなかったのか。
一応、大人しく、行儀よくしている。
牙をむいてはいない。

しかし、2LDKの部屋がとてつもなく狭く感じられ、おまけに動悸までしてきた。

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