その騎士は優しい嘘をつく
 懐かしい我が部屋。そこに入って気付いた。
 あのとき書いた手紙が、いまだにこの部屋から出ることなく、その机の上にあった、ということを。
 一年前に書いたあの手紙だ。
 それを見つけた時のハイナーは、手にしていた荷物をドサリと落としてしまうほどだった。
 彼女の手に渡ることのなかった手紙と、そして婚約指輪。

 あんな酷い別れ方をしてから一年が経つ。

 あれ以降、ハイナーはアンネッテに連絡をしなかったことになるわけで。

『待っています』と彼女の手紙には書かれていたが、一年だ。連絡もせずに一年。
 しかも彼女にかけた最後の言葉がよりによってあれ。

「くそっ」
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