婚約破棄された私は悪役令嬢に堕ちて慰謝料としてこの国を貰いました 〜冴えない地方令嬢の復讐劇〜
私はこの国を手に入れた。
ここから見える景色だけが、私の心を満たしてくれる。
私を闇に堕とした元王子は、もうこの国にはいない。ううん、この世界からその存在を抹消したのだから……。
「レイチェル女王、お耳に入れたいことがございます」
「それは何かしら、セバスチャン」
「はっ、実は牢獄に行方不明であったトーマスがおりまして、刑の執行をしてよいものか迷っておるのです」
「そんなこと決まってますわ。聞くまでもありません、そのまま……」
あれ、言葉が続かないわ。トーマスだからなの? ううん、だってあのときは、彼に対してなんとも思わなかったじゃないの。なぜ今になって……。
その理由がまったく分からない。だから私はセバスチャンに命じて、トーマスと話をしようと考えたのです。
「では刑の執行をいたし……」
「待ちなさい、その前にトーマスと話をしたいわ。べ、別に深い意味はないの、ただ……どうして投獄されたか、聞くだけだから」
「御意、すぐに連れてまいります」
そうよ、処刑するなら、その理由ぐらい知らないといけませんし。本当にそれだけ、なんですから……。
私は玉座の間でトーマスを待った。数秒が何時間にも感じる中、セバスチャンに連れられたトーマスが、私の元へ連れて来られた。
「レイチェル女王、お連れいたしました」
「そっ、セバスチャンはさがっていいわ」
「かしこまりました」
「さて、トーマス、アナタにひとつ尋ねたいことがあるの」
「はい、なんでございましょうか」
なんですの、なんで……処刑が決まっているのに、トーマスは笑顔でいられるの。それに、なぜそれを私が気にしてしまうのよ、どうして……。
揺れ始める心を抑え、私はトーマスに処刑の理由を尋ねた。
「トーマス、アナタはなぜ投獄され処刑が決まったのかしら? 深い意味はないわ、ただ、少しだけ理由を知りたいと思っただけよ」
「私が投獄された理由は……ミシェル元王子を殺害しよとして、失敗したからです。だって、許せなかったんですよ、レイチェルを泣かせたこと、だからなのです」
「な、なんで呼び捨てなんですのっ。今やこのレイチェルは女王なんですか……」
「半日、私の想い人になるって約束が、まだ半日残ってますから。ダメ、でしょうか?」
トーマスの言う通り残ってるけど、なんでこの状況でそんなこと言えるのよ。だって私は……アナタを処刑しようとしたのよ!
乱れ始める心に、私の思考はパニック寸前。
だからこそ、トーマスの返事に頷いてしまったのよ。
「そ、そうね。そうだったわね、それくらい許してあげるわよ」
「ありがとう、レイチェル。それに、私は今日で最後ですからね」
最後……そうよ、だってトーマスは処刑が決まっているのです。なのに、なんで体が熱くなるの、どうして私は彼の前で平静を保てないのよ。
「あの、レイチェル? 泣いているのですか?」
「だ、誰が泣いてるですって、このレイチェルが涙など……」
嘘……どうして、涙なんて、あのとき枯れ果てたはずよ。それなのにどうして……。
床にこぼれ落ちる大粒の涙。
トーマスに言われるまで気づかなかった。
私の仮面は彼のひと言で完全に壊れてしまった。
「これは違うの、断じて涙なんかじゃ……」
「レイチェル、最後だから本当のことを言うね。私の想い人は……変わる前のレイチェルだったんだよ」
「──!?」
えっ、今なんて言ったの。トーマスの想い人、その名前……レイチェルって、言ったよね。私の気のせいじゃ、ないよね。
困惑する私に構うことなく、トーマスは話を続けたのだ。
「だからね、レイチェルの傍にいられるだけで、幸せだったんだ。たとえ、その姿が変わろうとも、私の想いは決して変わらないのだからね」
「トーマス……」
「でも、これでお別れだね、レイチェル。最後にキミと話せてよかったよ。これからは、幸せな人生を歩んでね。それじゃ、私は行くね」
ダメ……ダメよ、絶対にそんなことさせない。だって、ようやく分かったの、私は、私の気持ちは……。
「セバスチャン! トーマスの処刑内容を中止します。そのかわりに、このレイチェルに一生その身を捧げる、そのように刑罰の変更をしなさい。いいですわね!」
「はっ、レイチェル女王のみこころのままに」
「レイチェル、それって……」
「か、勘違いしないでよねっ。別にトーマスのことなんて、なんとも想ってないわよ。ただ、想い人になる約束が、まだ残ってるだけなんだから……」
「でも、一生って……」
「うるさい、うるさい、うるさーーーーい。いいから、このレイチェルに黙って従えばいいんですからっ、ばかっ」
素直になれずとも、悪役令嬢に堕ちようとも、こんな私をずっと想っていてくれた。
だから私はトーマスと道をともに歩もうと決めたのだ。たとえ、悪役女王と呼ばれようとも。
ここから見える景色だけが、私の心を満たしてくれる。
私を闇に堕とした元王子は、もうこの国にはいない。ううん、この世界からその存在を抹消したのだから……。
「レイチェル女王、お耳に入れたいことがございます」
「それは何かしら、セバスチャン」
「はっ、実は牢獄に行方不明であったトーマスがおりまして、刑の執行をしてよいものか迷っておるのです」
「そんなこと決まってますわ。聞くまでもありません、そのまま……」
あれ、言葉が続かないわ。トーマスだからなの? ううん、だってあのときは、彼に対してなんとも思わなかったじゃないの。なぜ今になって……。
その理由がまったく分からない。だから私はセバスチャンに命じて、トーマスと話をしようと考えたのです。
「では刑の執行をいたし……」
「待ちなさい、その前にトーマスと話をしたいわ。べ、別に深い意味はないの、ただ……どうして投獄されたか、聞くだけだから」
「御意、すぐに連れてまいります」
そうよ、処刑するなら、その理由ぐらい知らないといけませんし。本当にそれだけ、なんですから……。
私は玉座の間でトーマスを待った。数秒が何時間にも感じる中、セバスチャンに連れられたトーマスが、私の元へ連れて来られた。
「レイチェル女王、お連れいたしました」
「そっ、セバスチャンはさがっていいわ」
「かしこまりました」
「さて、トーマス、アナタにひとつ尋ねたいことがあるの」
「はい、なんでございましょうか」
なんですの、なんで……処刑が決まっているのに、トーマスは笑顔でいられるの。それに、なぜそれを私が気にしてしまうのよ、どうして……。
揺れ始める心を抑え、私はトーマスに処刑の理由を尋ねた。
「トーマス、アナタはなぜ投獄され処刑が決まったのかしら? 深い意味はないわ、ただ、少しだけ理由を知りたいと思っただけよ」
「私が投獄された理由は……ミシェル元王子を殺害しよとして、失敗したからです。だって、許せなかったんですよ、レイチェルを泣かせたこと、だからなのです」
「な、なんで呼び捨てなんですのっ。今やこのレイチェルは女王なんですか……」
「半日、私の想い人になるって約束が、まだ半日残ってますから。ダメ、でしょうか?」
トーマスの言う通り残ってるけど、なんでこの状況でそんなこと言えるのよ。だって私は……アナタを処刑しようとしたのよ!
乱れ始める心に、私の思考はパニック寸前。
だからこそ、トーマスの返事に頷いてしまったのよ。
「そ、そうね。そうだったわね、それくらい許してあげるわよ」
「ありがとう、レイチェル。それに、私は今日で最後ですからね」
最後……そうよ、だってトーマスは処刑が決まっているのです。なのに、なんで体が熱くなるの、どうして私は彼の前で平静を保てないのよ。
「あの、レイチェル? 泣いているのですか?」
「だ、誰が泣いてるですって、このレイチェルが涙など……」
嘘……どうして、涙なんて、あのとき枯れ果てたはずよ。それなのにどうして……。
床にこぼれ落ちる大粒の涙。
トーマスに言われるまで気づかなかった。
私の仮面は彼のひと言で完全に壊れてしまった。
「これは違うの、断じて涙なんかじゃ……」
「レイチェル、最後だから本当のことを言うね。私の想い人は……変わる前のレイチェルだったんだよ」
「──!?」
えっ、今なんて言ったの。トーマスの想い人、その名前……レイチェルって、言ったよね。私の気のせいじゃ、ないよね。
困惑する私に構うことなく、トーマスは話を続けたのだ。
「だからね、レイチェルの傍にいられるだけで、幸せだったんだ。たとえ、その姿が変わろうとも、私の想いは決して変わらないのだからね」
「トーマス……」
「でも、これでお別れだね、レイチェル。最後にキミと話せてよかったよ。これからは、幸せな人生を歩んでね。それじゃ、私は行くね」
ダメ……ダメよ、絶対にそんなことさせない。だって、ようやく分かったの、私は、私の気持ちは……。
「セバスチャン! トーマスの処刑内容を中止します。そのかわりに、このレイチェルに一生その身を捧げる、そのように刑罰の変更をしなさい。いいですわね!」
「はっ、レイチェル女王のみこころのままに」
「レイチェル、それって……」
「か、勘違いしないでよねっ。別にトーマスのことなんて、なんとも想ってないわよ。ただ、想い人になる約束が、まだ残ってるだけなんだから……」
「でも、一生って……」
「うるさい、うるさい、うるさーーーーい。いいから、このレイチェルに黙って従えばいいんですからっ、ばかっ」
素直になれずとも、悪役令嬢に堕ちようとも、こんな私をずっと想っていてくれた。
だから私はトーマスと道をともに歩もうと決めたのだ。たとえ、悪役女王と呼ばれようとも。


