最初で最後の恋をおしえて

 その後、ダイニングバーでの歓迎会は解散となり、二次会に行く人々は羽澄を中心に次の店へと歩いていく。

 紬希は葵衣と連れ立ち、駅へと向かった。4月にしては少し冷たい夜風が、熱った頬に気持ちがいい。

「如月さん。帰っちゃうの?」

 後ろから声をかけられ、肩を揺らす。答える前に男性は決めつけて話し出した。

「付き合い悪いなあ。あっ、そうか。このあと、俺とふたりで飲み直したいから、二次会に行かなかったのだな」

 振り向いた先にいたのは、同僚の相川和哉(あいかわかずや)。普段から職場でもよく話しかけられてはいるが、今ほど馴れ馴れしい感じではない。

 酔っているようだ。葵衣が冷静に対応する。

「私たちは帰りますから、相川さんは皆さんと二次会へ行かれてください」

 葵衣が紬希の代わりに前に出たのが気に入らなかったのか、相川は怪訝な表情を浮かべた。

「俺は如月さんと飲みたいんだよ」

 腕をつかもうとする乱暴な手の動きに、体を縮こませる。

「やだな。相川さん。こんなところにいたんですか。皆さん、相川さんを待ってますよ」

 別の男性の声がして、恐る恐る様子を伺うと、二次会に向かったはずの羽澄が、相川の両肩をがっちりと押さえていた。

 つかまれるかと思った紬希の腕は、触れられさえしなかった。

「羽澄くん」

 面食らった相川は、羽澄に連れられ来た道を戻っていく。足取りがおぼつかない相川を助けるように、羽澄は肩を組む。はたから見れば、仲のいい同僚が意気投合している光景だ。

「皆さん、相川さんが来ないと盛り上がらないって、残念がっていましたよ」

「いやー。そいつは仕方ないな」

 次第に嬉しそうに声を弾ませていく相川と穏やかに微笑む羽澄の横顔をしばらく見送ったあと、紬希と葵衣は再び駅へと歩き出した。
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