最初で最後の恋をおしえて
紬希たちは、どちらともなく顔を見合わせ、帰るつもりだった予定を変え、コーヒーショップへと足を向けていた。
夜九時の店内。遅い時間だが、客はそれなりにいた。勉強している学生もちらほらいる。
紬希たちは各々コーヒーを購入し、窓際のカウンター席についた。
話し足りないのはいつもで、だから寄り道をしたわけではない。なにかを話すわけではなく、どことなく高ぶった気持ちを落ち着けたいのは紬希も葵衣も同じだった。
ふたりでぼんやりと窓の外を眺め、たまにコーヒーを口に運んだ。
「二次会に来ないのに、ここにいるなんて、本当つれないな」
数分、いや、数十分が過ぎただろうか。後ろから声をかけられ、ギクリとする。
紬希の隣、高いカウンターの椅子に軽々と腰掛け、驚かせた張本人は悪戯っぽく「フフ」と笑う。
「なんだ。羽澄さん」
ホッと息を吐くと、羽澄は片眉を上げた。
「俺じゃご不満?」
「いえ」
ぎこちなく笑うと、羽澄は「ごめん。ちょっと意地悪だった」とコーヒーカップに口をつけた。
「羽澄さんこそ、二次会はいいんですか?」
葵衣の質問に、羽澄は体を屈め、ふたりにしか聞こえない声で囁いた。
「忘れ物を取りに行ってきますって抜けて来た。俺、二次会より『恋』の方が気になっちゃって」