最初で最後の恋をおしえて
「羽澄さん。おはようございます」
「おはようございます」
紬希から離れていく間にも、道行く人に声をかけられ、彼は挨拶をしている。中には、『おはようございます』の語尾にハートマークがついていそうな女性もいるのだが、彼に温度差は感じられない。
『気持ちがなくても、付き合うことはできますからね』という葵衣の台詞思い出し、頭がクリアになった。
そうだ。私たちがしたいのは、"小学生の恋する気持ち"の共有だ。本物の恋じゃない。
羽澄の誰に対しても変わらない態度を目の当たりにしたお陰で、冷静になれた気がした。
頬を軽くたたき、気合を入れる。
「さあ、仕事仕事」
改めてパソコンに向き直り、データを開いた。
午前中に頼まれていた資料を提出すると、別の仕事の依頼が入る。
「こちらの高木様邸。清潔感あふれる白を基調にしたイメージでお考えなの。単調にならないように、アレンジしてくれないかしら」
「わかりました」
渡されたイメージ画像には、広々としたアイランドキッチンが描かれている。
あらゆるカラーが選べるとはいえ、白色は根強い人気がある。しかし、白だけにしてしまうと圧迫感を感じる場合がある。
そのため、できる限りイメージを損なわないように何種類かの提案をして、お客様に選んでもらうようにしている。
もちろんほかのカラーを選んだ場合も、数種類の候補を挙げる。実際の形になったとき、イメージしていたものとかけ離れたものにならないようにするためだ。
どれだけ資料を作成しても、提案が無駄になるときもある。けれど、少しでも納得できるインテリアに近づける手助けができればと思っていた。