最初で最後の恋をおしえて

「ハハ。二着目の顔拓(がんたく)

 魚拓(ぎょたく)ならぬ顔拓。スーツにくっきりと化粧がついてしまっていた。

「今日は羽澄さんが悪いんですからね」

「はいそうですね」

 文句を言っているのに、羽澄はどこかうれしそうにしている。笑われたせいで、涙もどこかにいってしまった。

「羽澄さん?」

 棘のある声色で言ったのに、羽澄は「大和って呼んでよ」と無理難題を突きつける。

「嫌です」

「どうして? 恥ずかしいから?」

 余裕な態度で言われ、目を三角にする。

「呼ぶ必要がないからです!」

 こっちは怒っているのに、なんだか空回っている。羽澄は、落ち着き払って質問をしてくる。

「俺たち、そのうちいつか結婚するから、婚約者なんだろう?」

「ええ。まあ、そうだと思います」

 なにを急に言い出すのだろうと、羽澄をマジマジと見つめる。

「立場的に、俺が如月を名乗るようになるのだと思うが、そしたら、俺は羽澄でもなんでもなくなる」

 どうしてだろう。彼が如月になると言われると、苦しくて泣きたくなった。

「また泣きそうな顔してる。うれしいというより、つらそうだ」

 心を読まれ、言葉に詰まる。
< 90 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop