もう、キスだけじゃ足んない。


「ベッドまで運ぶよ?」


目を閉じたままうんうん唸る桃華を持ち上げようと、背中と膝裏に手を回す。

今日はもうお風呂は無理だろうから、明日の朝入ってもらって。

メイクだけは、メイクシートが洗面所にあるからそれで落としてあげよう。


「桃華……」


頬にかかる長い髪を耳にかけて、そっと熱い頬に手をすべらせる。

せっかくふたりになれたし、なんて残念な気持ちはあるけれど、今は彼女の体調が第一優先。

寝不足な人がお酒を飲んだときのひどさは、千歳くんを見てれば分かるから。


「んんっ、杏……?」

「うん、俺だよ。目覚めた?」


ゆっくり髪をなでていれば、そっと開かれた瞳が俺を見上げる。


「胡桃たちは……?」

「部屋に戻ったよ。桃華たちが飲んじゃったの、アレジュースじゃなくてお酒でさ」

「えっ……あ、ごめんなさい」

「いいよ、謝らなくて。それよりも、体調は?
気持ち悪いとか頭痛いとかない?」


とろんと潤んだ瞳にドクッと心臓が跳ねたけれど、それには気づかないフリをして、もう一度頭をひとなでする。


「ん、平気……水、ほしい」

「ん、ちょっと待ってて」


抑えろ抑えろ。

開けた冷蔵庫から流れてくる冷気で顔を冷まして、ペットボトル片手に桃華の元に戻る。


「はい、これ水。
飲んだら今日はもう寝よう?」

「……」

「桃華?」


パキッとフタを開けて渡して受け取ってくれたはいいものの、いつまで経っても飲もうとしない。

もしかして、急に体調が……。


「桃……」

「やだ」

「え」

「寝ない」

「え?」

「まだ、寝たくない」

「えっ!?」

ペットボトルを両手で包み込んで、並々と揺れる水をじっと見つめる桃華。

「寝たくないって、」


ドクンドクンドクン。

体の奥底から熱が這い上がってくる。

寝たくない。

それじゃあ、まるで。

「……した、い」

「っ!!」

「杏……しよう?」
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