最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
第五章 非常に不本意だが、離したくない
「ヒメ? 大丈夫ですか? ヒメー?」

ダリルが私の前で手をパタパタと横に振った。

ティーカップを口に運びながらぼーっとしてしまっていた私は、我に返って目線を上げる。

「大丈夫ですか、ヒメ。かなりきてますねー」

「あー……ごめんなさい」

「いえいえ、誰でもそうなりますよ。恋人が詐欺師だったんでしょう?」

ダリルのストレートな物言いに、私は思わず笑顔を引きつらせる。

山内さんとはまるでお見合いしたてのような関係で、恋愛感情はまだ生まれてなかったのだと思う。

だから、失恋したというショックは驚くほど薄いけれど、ずっと騙されていたという事実は胸をえぐった。

なにより、好意がゼロだったと気づけなかった自分がひどく情けない。

「優しい人だと、思っていたんですが」

「優しくするだけなら誰だってできますよ。ほら、俺だって」

ダリルがひょいっと肩をすくめる。そう言えばダリルは、お金をもらっているから親切にするだけだと最初からはっきり言ってくれたっけ。

「それでもダリルには感謝してますよ」

「そういう甘々なところが騙されちゃうんじゃないんですか? ヤケ酒でもしてみたらどうです?」

< 122 / 272 >

この作品をシェア

pagetop