最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「志遠さんには騙されたくないですし」

「あの結婚詐欺師には騙されてもかまわないくせに、俺はダメなのか?」

「だって……志遠さんに騙されたら、きっとつらいので」

信じてしまった分だけ、深い傷を負いそうで怖い。

裏切られることに恐怖を感じ、だったら信じない方がいいのではないかと疑心暗鬼に陥る。

「陽芽は底抜けに単純で、人の言葉をすぐ信じる人間なのだと思っていたが――どうやら違うようだな」

彼は指を解き、少しだけ体を離してくれる。

やっと呼吸ができるようになって、少しずつ息を吐き出した。

「少し、臆病なところもあるみたいだ」

志遠さんはゆったりと微笑むと、私の頬に人さし指を滑らせた。

「夕食はまだだろう? 外で食べるか? 疲れているなら、デリバリーを頼むが」

ごく普通の質問なのに、どこか熱を孕んだ声。

ドキドキが収まらず、いつも通り頭が回らなくなり「ええと……」と返答に困る。

「志遠さんは、どちらが――」

「陽芽が決めろ。俺はいつでもなんでも食べられる」

「……じゃあ、デリバリーを。海外も日本と同じように家まで持ってきてもらえるんですか?」

「ああ。星付きのレストランの料理を運んでもらおう」

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