最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「陽芽はきっと今日一番の華になる」

「いいすぎですよ」

「行けばわかる。周りがなにを話しているか理解できなくても、君は微笑んでくれていればいい。できる限り俺たちが通訳するが――」

「俺たち?」

志遠さんのほかに通訳できる人間がいるのだろうか。私が尋ね返すと、彼は苦虫をかみつぶしたような顔で息をついた。

「……どうしても行くと言って聞かないヤツがいる。陽芽の通訳兼護衛として、勝手に手筈を整えて、アーサーに了承を取ってしまった」

「それってもしかして……」

サロンの駐車場で志遠さんの用意してくれた車に乗り込み待っていると、予想通りの人物が姿を現した。

「今日もよろしくお願いいたします」

「ダリル!」

「俺がヒメの通訳をしますよ。伯爵家のパーティーともなれば、シオンは挨拶回りで忙しくてヒメにかまっている暇なんてないでしょうから」

志遠さんは「余計な心配だ」と言ってそっと額を押さえる。

「俺はずっと陽芽のそばにいる」

「トイレに行っている間まで? こんなに美しく着飾ったヒメを五分でも放置しておいたら、獰猛な貴族どもに狩られてしまいますよ」

志遠さんが見たこともないような目でギロリとダリルを睨む。

やがて折れたようで「陽芽のことを頼む」とつぶやいてシートに深くもたれた。


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