最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
ダリルに「陽芽を頼む」とひと声かけたあと、俺はエレノアを連れてサロンに向かった。

『シオン』

見ればエレノアは勝ち誇った顔で『エスコートして』とばかりに手を差し出している。

陽芽の前で別の女性の手を取るのは耐え難いが、彼女の父親のアーサーには恩がある。愛娘を無下に扱うわけにもいかない。

仕方なく彼女の手を取り、螺旋階段を上がって二階へ向かった。

たしかサロンは二階の左手にあったはず。向かおうと足を進めると、エレノアは「こっちよ」と反対側の通路に俺を招いた。

『どこへ行くんだ?』

『私の部屋よ。サロンじゃ人目について、ゆっくり話せないでしょう?』

『女性の部屋にいくつもりはないよ。あらぬ誤解を受けたくない』

エレノアの手を払い、周囲に人気がないことを確認すると、俺は口調をやや厳しくして警告した。

『こういう態度はやめてもらえないか。俺は心に決めた女性がいる。君の気持ちには応えられない』

すると彼女は険しい目をして俺の胸もとを掴んだ。

すぐ脇にあった客間に俺を押し込み、すかさず自らも入りドアを閉め、鍵をかける。

『エレノア――』

やめてくれ、そう言おうとすると、突然彼女は胸に飛び込んできて、潤んだ瞳を俺に向けた。

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