最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「志遠さん! 洋服のセンス、いいですね!」

「陽芽よりはマシだと思う」

……どうがんばってもポジティブに解釈できない言われ方をして沈黙する。

その日の夕食は、帰国してきたばかりの志遠さんをいたわろうと、私が日本食を作った。

白米に肉じゃが、サバの西京漬け、タコとワカメの酢の物――ちょっぴり地味かなとも思ったけれど、志遠さんは喜んで食べてくれた。

「しっかり栄養を摂ってくれているみたいで安心したよ」

「つわりもありませんし。栄養はばっちりだと思いますよ」

志遠さんは日本にずっと暮らしている私よりも美しい箸さばきで魚の身をほぐしていく。

「会社の方は大丈夫なのか? 急な妊娠で驚かれただろう」

「ええ。でも女性が多いせいか制度はしっかりしていて。産休、育休はきちんととれそうです」

私が勤めているのは大手食品会社。事務兼経理補佐で、デスクワークがメインだから、体に負担がかかることもない。

出産経験のある先輩が多く、私以上に妊娠中の体調に詳しくて気遣ってくれる。休憩室にデカフェのコーヒーを置いてくれたり、お下がりの骨盤ベルトをくれたり。

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