最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
不安になって志遠さんをのぞき込むと、切ない表情で私の額にキスを落とした。

「ごめん、陽芽。せっかくのふたりの時間だったのに」

「私は大丈夫です。少し志遠さんが心配になっただけで……」

「トラブルが起きて、俺が直接顔を出さなければならなくなった。心配はない。足を運べば済む話だ」

そう答えて、私の唇に謝罪のキスを落とす。

その日の夜、志遠さんは迎えの車に乗り込んで、イギリスへと戻っていった。

一緒に空港まで行きたかったけれど、寒いからダメだと制止され、私は家でおとなしく見送ることにする。

……家にいた方が、もっと寒いよ。

今夜も抱きしめ合って眠れるのだと思っていた。大切なふたりきりの時間が失われ、正直言って悲しい。

けれど、これが彼の仕事であり、誇りでもあるのだ。困らせてはいけない。

……私は私でがんばらなくちゃ。

たとえ彼と離れ離れになっても出産を立派にやり遂げなくちゃ。そう、私はひとりじゃない。お腹の子とふたりだ。

パン!と頬を叩いて気合いを入れる。私、がんばれ!と自分に喝を入れた。



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