最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
志遠さんの言葉にぞっとする。取り返しのつかないレベルの負債、つまり倒産しかねない危機的状況ということだろうか。

『企業としてだけじゃない。国民はみな不安にかられている。今、俺がイギリスを離れて日本で活動を始めれば、不安を煽る』

志遠さんは騎士の称号を持つ人物。街行く人にまで顔を知られている有名人だ。

彼がこの重要な局面でイギリスを捨てるようなそぶりを見せるわけにはいかない。

「わかりました。みなさんが志遠さんを必要としているんですね」

私の言葉に、志遠さんは返事もなく黙り込んだ。私はじっと彼の次の言葉を待ち続ける。

「――君をロンドンに寄せたい……だが、言葉がわからない場所で暮らすのは、苦通か?」

ごくりと息をのむ。彼と一緒にロンドンへ――。

考えたことがないわけではないし、嫌というわけでもない。

けれど、私はこちらに就職しているし、産休までは働くと伝えてある。

私を気にかけてくれる上司や同僚たちにも恩返しをしたい。簡単には決意できることじゃない。

「私は……できることなら、もうしばらくここに残りたいと思っています。会社のこともありますし。それに、志遠さんは今後何年もイギリスにいなければならないというわけではないんですよね……?」

< 198 / 272 >

この作品をシェア

pagetop