最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「郊外に家を用意しました。そりゃあ、ここに比べたら狭くて設備も劣りますが、一応新築一軒家で、不自由のない暮らしができると思いますよ。シオンのお父様からの、せめてものプレゼント、というか手切れ金です」

にっこりと笑って、空になった白い袋をぶら下げて玄関に向かう。

「シオンは年末、三十日には戻ってきますよね。二十九日に迎えに来ますんで、それまでに最低限の荷物をまとめておいてください。あ、服とかそういうのはこちらで用意しますから、印鑑とか、通帳とか、母子手帳とか、どうしても持っていかなければならないもの――」

そう言うと、和室の奥にある仏壇を指さしパチリとウインクした。

「遺影とか、ね」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ダリルの提案はあまりにも急すぎる。突然家を用意したから移り住めなんて言われても――志遠さんと縁を切れなんて言われても、とても承服できない。

せめて、志遠さんや彼のお父様と話をさせてほしい。

「志遠さんはそのことを知っているんですか?」

「ああ、あまりにもベタな台詞すぎて言い忘れましたが、シオンには言わないでください。あと、お手伝いさんにも」

「そんなこと、わかりましたなんて言えるわけないじゃありませんか!」
< 230 / 272 >

この作品をシェア

pagetop