最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
ここには志遠さんのお母様が眠っている。お母様が大好きだったという百合の花を供え、私たちは心の中で故人と対話した。

「俺は親孝行ができただろうか」

そういえば出会ったばかりのとき、志遠さんはお母様への孝行の仕方がわからないと言っていたっけ。

故人への孝行は、自分を納得させるためにあるものだと思う。

相手はもう亡くなっているのだから、喜ぶもなにもない。

ただ、自分が故人に誇らしく向き合えるか、胸を張って報告できるかどうかだ。

「お父様は晴に会って、とても喜んでいたわ」

晴が腕の中できゃきゃっと笑う。近くに蝶々が飛んでいるのを見つけたようだ。

「その隣にお母様がいたら、きっと同じように笑ってくれたと思う」

「……そうだな。きっと喜んでくれている」

志遠さんは満足そうにそう答え、墓石に向かって再び手を合わせた。

「そういえば、どうして陽芽を選んだのか、まだ話していなかったな」

ふと切り出した志遠さんに、私は「あ……」と声をあげる。

昔、そんな話をしたような。結局、慌ただしい日常が続き、詳しいことを聞けないまま今に至る。

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