最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「母が亡くなる直前、謎かけのような言葉を俺に残した。【あなたのほしいものはなんですか?】と問い、【なにもほしくない】と答えた女性をパートナーに選べと」

それは私がかつて志遠さんに尋ねられた質問、そのものだ。

「『ほしいものなんてない』、それが陽芽の答えだ」

たしかにその通りだけれど――。

「そんな漠然とした理由で私を?」

「当時は理解できなかったが、今ならわかる。母がなぜあんなことを言ったのか。【なにもほしくない】という女性に、母がなにを期待したのか」

志遠さんは墓石を――いや、その奥にある母の姿を見据えながら、答え合わせのように口を開いた。

「あのとき母は、自分は充分幸せだと言っていた」

「……つまり、お母さま自身が、なにもほしがっていなかった?」

「おそらく。といっても昔は母もハイブランドのファッションに身を包んだり、高価なジュエリーを身に着けたりと、人並みの欲を持っていた。ぱたりと欲が消えたのは病に侵されてからだ」

つまり、死と直面して気づいたことがあったということだろうか。

あらゆる欲望をそぎ落とした先で見つけたものとは――。

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