最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「君はロンドンでスリにあったとき、遺影が戻ってきてよかったと笑っていたよな」

「え? ええ、そうね」

「結婚詐欺に遭ったと知ったとき、早くわかってよかったと言った」

「そう……だったかしら」

「君は不幸を嘆かない。目の前にあるしあわせにだけ目を向ける」

志遠さんの指先が私の頬をなぞる。私の手の中から晴を受け取って、高く抱き上げた。

「陽芽はなにが本当に大切かをわかっている。金や地位、名声ではなく、本当に重要なものを。君はしあわせを見い出す審美眼を持っている」

志遠さんが浮かべた柔らかな笑みに、私はぼうっと魅せられる。

審美眼かどうかはわからないが、今自分がとても美しく尊いものに囲まれていることだけは理解している。

「なにもほしがらない――そんな考えを持つ人は、目の前にあるしあわせをすくいあげ、慈しむことができる女性だと母は知っていたのだろう」

ぼんやりと志遠さんを見つめ返すと、彼は晴を地面に下ろし、手を繋いだ。

「陽芽。今、君はしあわせか?」

「……! もちろん」

「俺もしあわせだ。君がそばにいて、晴もいる。もうなにもいらないよ。ふたりがいてくれるなら」

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