最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
しかし、勉強も運動も芸術もすべてに秀でた志遠さんは、疎外されるどころかみなの上に立ち、特待生として表彰され首席で卒業したという。

「――日本的に言うと、文武両道というんでしょうか」

「どちらかというと、智勇兼備ですかね」

知らない言葉を使われ、思わず黙り込む。ダリルは私より日本語がお上手だ。

「親の影響力や家柄を笠に着て生意気な口を利く生徒もたくさんいる中、シオンは自らの手で栄光を勝ち取った、ということです」

拳を握りしめうっとりと浸るダリルを見て、彼はよほど志遠さんを尊敬しているのだなと感心する。

ここまで人の心を引きつけるなんて、騎士という称号は伊達ではないようだ。

「俺も一応貴族ではありますが、位で言えば下の方で。上の人間から見れば嘲笑の的だったりするわけです。ですが、シオンだけは俺自身を見てくれました」

ダリルがふっと暗い顔を覗かせる。

彼自身、階級や差別に苦しめられていたのかもしれない。だからこそ志遠さんが余計にまぶしく目に映るのだろう。

「まぁ、他にもいろいろと恩があって、彼の力になろうと決めました。半ば強引に個人秘書として雇ってもらって――」

「強引に……?」

「シオンは俺に実家に帰って家業を継げとうるさいんですよ。でも俺は恩返しをすると決めたので」

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