最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
志遠さんは奥の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、キャップを捻る。

「あの件は忘れていい。俺にそのつもりはない」

簡潔に言い放ち、ミネラルウォーターを口に運ぶ。

ダリルはやるせない表情で志遠さんを見つめていたが、これ以上追及するのをあきらめたのか、ダイニングを出た。

帰ろうとしているダリルに、私は慌てて声をかける。

「あの、今日はありがとうございました。ダリルの案内のおかげで、素敵な一日を過ごせました」

ダリルは肩越しに振り向き、「Good night!」と手をひらひらさせた。そのまま玄関を出ていってしまう。

……喧嘩をしていたわけじゃないのよね?

妙な空気を引きずったままダイニングに戻ると、志遠さんはペットボトルを握りながら茫然とこちらを見つめていた。

「……あれだけ、志遠と呼ぶのを拒んでいたくせに、ダリルのことはあっさり名前で呼ぶんだな。しかも呼び捨てで」

「え?」

「……なんでもない」

不満を抱えているのか、むっとした様子でミネラルウォーターを飲み干す。

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