最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
『お恥ずかしい話ですが、実は両親に結婚はまだかとせっつかれていて。俺ももう、今年で三十になるので』

恥ずかしそうにぽりぽりと頬をかく彼。

そうか、三十歳にもなるとご両親が心配するものなのね。

私はすでに両親を亡くしているから、せっつかれることはないけれど、天国で『そろそろ結婚しなさいよ』なんて心配しているかもしれない。

『……その、もし菊宮さんさえよければ、結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?』

私ももう二十七歳、そろそろ結婚について真剣に考えた方がいいのかもしれない。

せっかくのご縁だ、山内さんのお話に乗ってみよう。だって彼、とても優しいし、立派な会社に勤めているし、天国の両親も喜んでくれるだろう。

私はその場で『はい』と返事をした。



――またしても志遠さんが「ちょっと待て」と横やりを入れる。

「今のところ、恋人感がまったく感じられないんだが。男女の情事はこれからなのか? あるいは、かいつまんだだけか?」

「情事というと、キスとかです? いえ、そういうことは結婚をしてからでもいいかなって」

「キスもまだなのか!? おかしいだろそれは!」

志遠さんは不満なようだが、それは他人にとやかく言われることではないので私は気にせず話を続ける。



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