迷彩服の恋人
「志貴3そ…じゃなかった、志貴さん。遅くなりました…すみません。」
「“土岐陸士長”、お疲れ様です。」
――あっ。〝噂の“土岐さん”〟が、来られたみたい……。
えっ、嘘でしょう!? こんなことってある!?
まさか…〝土岐さん〟が、〝あなた〟だったなんて…!
「中崎。課業終わってるし、〝外〟だから“土岐さん”でいい。〝階級〟は無し。使っても民間…一般の方は分からない。説明無しで分かるのは…おそらく、〝志貴さんの彼女さん〟ぐらいだよ。……って、えっ?ちょっと待って?望月さん、ですか?」
土岐さんが、私を見つけて…少し目を大きく開いた。
「えっ、何なに?土岐くん。都ちゃんと知り合いなの!?」
「結花先輩。〝捻挫した時に助けてくれた方〟、土岐さん…だったみたいです。」
「えぇぇ!?じゃあ、〝名乗らぬ王子様〟って…土岐くんだったの!?」
せんぱーい、ここでその〝王子様〟って言うのやめてくださーい!
恥ずかしいです…。
「はぁ!?えっ!?じゃあ、土岐が〝1週間心配してた民間人女性〟って…望月さんかよ。」
1週間、心配してくれた?
土岐さんが…? 私を…?
「はぁ!?何それ!?〝もっちゃん〟、抜け駆け!?」
「望月先輩、聞いてないですよ。ズルくないですか!?」
正直、"こんな空気"が一番嫌……。
これだから〝物事をすぐ恋愛に結び付ける人〟は…嫌い。
今話してるのは、そういうことじゃない……。
土岐さんに会えて嬉しいはずなのに、やっぱり帰りたい…。
「ちょっと3人は――。」
結花先輩が、朝香先輩たちを止めようとしたタイミングで…土岐さんが静かに口を開く。
「皆さん。"この会"を始める前に、少し…望月さんとお話させて下さい。…望月さん、大丈夫ですか?肩の力、抜けます?」
土岐さんは、1週間前にも見せてくれた物腰柔らかな笑顔で…私と向き合ってくれる。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫です、落ち着きました。…私、"こういう場"が少し苦手で…。……あの、先日はありがとうございました!」
「いえ、大丈夫なら良かったです。少しおつらそうでしたから…。そうでしたね、先日も同窓会…気乗りしてなかったですもんね。僕も…どちらかといえば"こういう場"は慣れてないのでお気持ち分かります。……さて。先日は名乗らずに帰ってしまい、大変失礼しました。土岐 真矢と申します。……あれから左足首の具合どうですか?」
「おかげ様で、完治しました。土岐さんは… 〝お困りだった方〟と、当番交代できましたか?」
「それなら良かったです。ご心配頂きありがとうございます。…おかげ様で、こちらも滞りなく。」
「よかったです。」
この会話の後…朝香先輩と〝若手2人の女子〟の機嫌を取りつつ、合コンが開始される――。