私の騎士様
焦ったような恵の声といつもより乱暴に揺さぶられる感覚に、伶奈の意識はどんどん覚醒していく。そして、完全に覚醒した伶奈の鼻に嗅いだことのない臭いが刺激し、耳には何かが燃える音、そして体には熱を感じる。

「恵?」

「お嬢様、火事が起きました!今すぐに避難しましょう!」

「火事!?」

慌てて伶奈が飛び起きると、ドアの向こうから火の粉が舞っているのが見える。

「お父様やお母様は?それに、それに……」

伶奈の頭に御曹司の顔が浮かぶ。火事という辺りにも突然のことに体が震える。そんな伶奈を恵は抱き締め、「今はご自分が助かることを考えてください」と言う。

だが、火の粉がここまで舞っているということは、もう火の手はそこまで迫っているはずだ。

「どうやってここから逃げるの?」

「窓から飛び降ります」

伶奈が聞き返す間もなく、恵は窓を開けて伶奈を横抱きにする。そして窓枠に足をかけた。熱を含んだ風が頬を撫でていく。
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