魔法の手に包まれて
 彼を待っている間、そうやって先日の卒園式の出来事を思い出していたら、つい顔が緩んでしまった。だから、急に声をかけられて千夏は焦る。
「千夏さん、お待たせしてしまい、申し訳ありません。場所は、すぐにわかりましたか?」

「はい」
 待ち合わせ場所は、市民ギャラリーの入り口だった。千夏は電車で最寄り駅まで来たが、あんな辺鄙なところに住んでいる彰良は移動手段が車しかない。市民ギャラリーの駐車場に車をとめようとしたら、入口がわからずにぐるぐると周辺の道路をさ迷ってしまった。それで待ち合わせの時間より少し遅れてしまったのだ。

「彰良さんて、見かけによらず、天然なところがありますよね」

「住んでいるところが、田舎ですからね。だから、都会は嫌いなんです」

「なんか、年寄りみたい。ここが都会って言っていたら、東京に行ったらどうするんですか?」

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